食は生命なり - 今に続く女子栄養大学農園
学園長 香川芳子
本学の創立者である香川綾は、“食は生命なり”という言葉を遺しています。これは、人々の生活を支える健康の維持・増進を図る基本が食にあることを意味するとともに、自然界の一員である人間と動・植物との関わりを表した言葉といえます。 本学は、創立以来、ただひたすらに食・健康に関わる研究・教育を行ってきました。その中で、学生に食物を育てることの大切さを伝えることは、大きな意味を持っています。食物を育てることで、生命への畏敬、感謝、喜びといった豊かな心を育てることができるのです。そして、それは食・健康に関わる人材を育成する上で、欠かすことのできないものです。 農園を作った当初、全ての学生が農園で食物を育てていました。今でこそ、学生数が増え、全ての学生が農園での実習を受けることはかないませんが、それでも、農園が存在することは、創立者の思いを今、これからに伝えることとなるのです。 そして、農園での食物を育てる営みは、食のあり方が人類の大きな課題となる今、その原点へと立ち返らせてくれるものであり、学生にとってかけがえのない財産になるものと確信しています。 これから、食・健康に携わることを考えていらっしゃる方にも、ぜひ一度、農園を訪れていただき、本学のありようの一端に触れていただければ幸いです。
そして、はたけへ・・・
女子栄養大学名誉教授 山口 文芳 (植物学)
土、いきもの、そして自然。今までにこの三つのうちどれかに何かを感じたことはありませんか。ふしぎ、すごさ、そして?力など、いろいろあると思います。実際に何かの栽培や飼育をしたことのある人は、きっと迫力のある何かを感じていることでしょう。 この大学には、その何かのきっかけとなる科目があります。「農園体験」です。栄養・保健系の大学に農園をつくり、その教育目標のひとつとして農園実習が置かれました。この構想は学園創設者の香川綾先生によってつくられ、現実化され、現在も続けられています。 学年、専攻に関係なく選択希望の学生は、自分の畑をもちます。そして、3月のジャガイモ、4月の春野菜、5月のカンショ、そして10月の冬野菜まで畑作りから植付け・栽培・収穫そして評価までを行います。野外での無農薬栽培なので、思いどおりにいかないことやよくわからないことが生じます。友人の畑を見ても、どれひとつとして同じ状態のものがないことも、ふしぎのひとつです。もちろん種子の成熟度、深さ、向き 土壌微生物の状態、それに水やりの量と回数と時期…などの差から生じる結果なのでしょうが…。 実習でよく起こることとして、大きくしすぎたため、固くなったり、すじっぽくなったハツカダイコンやコールラビ、節(葉の基部から生育してくるわき芽)を放任し、やぶ状になったため収量・品質が低下したトマト、より良い芽ばえや苗を確実に育てるため、1ヶ所に数粒ずつ種まきをしたのに選抜や間引きが遅れ、葉も根も伸びすぎてしまったダイコン、収量の増加を期待していたのにネズミに先を越されて食い荒らされたカンショなど…。 たべものの恨みは深いけれども、よく見て先を読んだ作業をすれば、収量がゼロになることはありません。種子や苗の状態から育てることにより、野菜の特徴がわかり、長所を生かした栽培・収穫そして料理を行えば、新しい野菜や食材へのチャレンジ力になります。例え一回目は失敗しても、知識や技術の何かが残ります。安全に食材をつくり、みんなで食べることにより、話題が豊かになり、きっと日本の豊かな四季を感じることでしょう。野菜を育てる土や畑、その土や畑づくりを、ひとりまたは友人と始めてみませんか。
|